第1章-3:相場の残酷な真実 ~努力が報われない唯一の世界~

Last Updated on 2026年2月15日 by ぷーやん

第1回、第2回では、努力が裏切られる相場のパラドックスと、私がITバブルで経験した地獄、そして「聖杯探し」の無意味さについてお話ししました。

続く今回の【第3回:プロスペクト理論 ~人間は負けるようにプログラミングされている~】では、なぜ知識があっても勝てないのか、その根源にある「脳のバグ」と、冷酷な統計データが示す相場の実態について深掘りします。

【第3回:プロスペクト理論 ~人間は負けるようにプログラミングされている~】

「わかっちゃいるけど、やめられない」の正体

「損切りを早くし、利益を伸ばせ(損小利大)」。

投資の教科書を開けば、必ず1ページ目に書いてある格言です。小学生でも理解できるほどシンプルな理屈です。しかし、この一文を完璧に実行できているトレーダーが、この世にどれほどいるでしょうか。

多くの人は、自分の意志が弱いから、あるいはメンタルが未熟だから損切りができないのだと自分を責めます。

しかし、事実はもっと残酷です。人間は、その生存本能のレベルにおいて、「相場で負けるようにプログラミングされている」のです。

これを科学的に証明したのが、行動経済学の核心である「プロスペクト理論」です。

1979年にダニエル・カーネマンらが提唱したこの理論は、私たちの脳がいかに不合理な判断を下すかを白日の下にさらしました。

想像してみてください。

あなたの目の前に、2つの選択肢があります。 A:無条件で100万円がもらえる。 B:コインを投げて、表が出れば200万円もらえるが、裏が出れば1円ももらえない。

多くの人は、確実に利益を手に入れようとして「A」を選びます。期待値はどちらも同じ100万円であるにもかかわらず、です。

では、次の状況ならどうでしょう。

あなたには現在、200万円の借金があります。 A:無条件で借金が100万円に減る(100万円の損失確定)。 B:コインを投げて、表が出れば借金がゼロになるが、裏が出れば200万円の借金のままである。

今度は、多くの人が「B」を選びます。損失を確定させる痛みに耐えられず、一か八かの賭けに出てしまうのです。

これが相場で何を引き起こすか。

含み益が出れば「この利益を失いたくない」という恐怖に震えて早々に決済し(利小)、含み損が出れば「いつか戻るはずだ」という根拠のない希望にすがって放置し、最終的に再起不能なダメージを受ける(損大)。

つまり、「人間の本能に従ってトレードをする」=「確実に負ける」という等式が成立するのです。

あなたが負けるのは、あなたが人間として正常な感覚を持っている証拠であり、相場の世界ではその「正常さ」こそが致命的な欠陥となるのです。

脳を支配する「悪魔の物質」

私たちのトレードを狂わせるのは、プロスペクト理論だけではありません。脳内で分泌される化学物質もまた、冷静な判断を妨げる「見えない敵」となります。

取引がうまく行き、利益が積み重なると、脳内には「テストステロン」という物質が溢れ出します。これは自信を深め、狩猟本能を刺激するホルモンですが、過剰になると人間を「傲慢」に変えます。

リスクに対する感覚が麻痺し、根拠のない万能感に支配され、ロットを不適切に上げて破滅へと突き進むのです。

逆に、損失が続き、ドローダウンの真っ只中にいる時、脳内を支配するのはストレスホルモンである「コルチゾール」です。

これが蓄積されると、人間は不合理なまでに臆病になります。

検証で「ここはチャンスだ」と証明されている場面でも、過去の痛みがフラッシュバックして指が動かなくなります。あるいは、そのストレスから逃れたい一心で、ルールを無視した無謀な「お祈りトレード」に走ってしまうのです。

相場とは、こうした人間の剥き出しの欲望と恐怖が、ホルモンレベルでぶつかり合う、巨大な「精神の実験場」です。

モニターの前のあなたは、自分では冷静に判断しているつもりでも、実際には脳内の化学物質によって操られている操り人形に過ぎないのかもしれません。

「90-10の法則」:敗者が支える勝者の椅子

ここで、投資業界でまことしやかに語られる「90-10の法則」についてお話ししましょう。

これは、「マーケットに参加する90%の人間は、90日以内に、資産の90%を失う」という恐ろしい統計です。

私の知人が勤める証券会社の口座データを見せてもらった時、その数字の冷徹さに言葉を失いました。

1年間で1円でも口座残高を増やした人は、全体のわずか数パーセント。残りの9割以上は、大切に貯めた資金をマーケットという巨大なシュレッダーに投げ込んでいるのが現実です。

なぜこれほどまでに多くの人が負けるのか。

それは、マーケットが「ゼロサムゲーム(あるいは手数料を引けばマイナスサムゲーム)」であり、誰かの利益は必ず誰かの損失によって成り立っているからです。

あなたが注文ボタンを押した時、その向こう側には必ず「反対売買」をしている相手がいます。

あなたが「上がる」と信じて買った時、相手は「下がる」と確信して売っているのです。

その相手は、誰でしょうか? 近所の主婦でしょうか? それとも、年収数億円を稼ぎ、最新のアルゴリズムを操るゴールドマン・サックスのプロディーラーでしょうか。

初心者が、自分が負けている理由すら分からずに退場していく一方で、その資金を静かに、そして確実に吸い上げている10%の「持てる者」たちがいます。

彼らは感情を持たず、統計的な優位性だけを信じて、淡々と網を仕掛けて待っています。

もしあなたが今、チャートを見て「なんとなく上がりそうだ」と感じているなら、あなたは間違いなく90%の「カモ」の側にいます。その「なんとなく」という感情こそが、プロが最も好むエサなのです。

「マグレ」という名の遅効性の毒

初心者が相場で最も警戒すべきなのは、「負けること」ではなく「たまたま勝ってしまうこと」です。

相場はランダムな値動きを孕んでいるため、何の知識もない素人が、猿がダーツを投げるように適当に売買しても、一時的に連戦連勝することがあります。

私はこれを「マグレ」と呼び、トレーダーの寿命を縮める最大の「毒」であると考えています。

マグレで勝った人間は、その成功を「自分の実力」や「相場のセンス」だと勘違いします。すると、正しい検証や資金管理の学習を疎かにし、生活レベルを上げ、レバレッジを限界まで高めます。

脳は「簡単に稼げる」という快楽を記憶し、もはや地道な労働や地味な検証には戻れなくなります。

しかし、運だけで勝てるほど相場は甘くありません。

必ず訪れる「確率の収束」によって連敗が始まった時、彼らにはそれを耐える「仕組み」も「論理的な裏付け」もありません。結果、マグレで得た利益の数倍の損失を出し、借金だけを残して消えていくのです。

「勝っても、まぐれ。負けても、まぐれ」。

一回一回の勝ち負けに一喜一憂し、拳を握りしめたり頭を抱えたりしているうちは、あなたはまだ相場を「博打」として楽しんでいるに過ぎません。

本能を捨て、機械の「しもべ」になれるか

ここまでの話で、相場がいかに人間にとって不自然で、残酷な場所であるかがお分かりいただけたでしょうか。努力は報われず、脳は嘘をつき、統計はあなたの敗北を予言しています。

では、私たちは絶望するしかないのでしょうか?。

いいえ、解決策はあります。それは、「自分という不確定要素を、トレードから完全に排除すること」です。

私が辿り着いた結論は、極めてシンプルです。

「自分の考えや相場観など、一滴の価値もない。ただ、検証された確率(エッジ)に従い、機械の一部として機能すること」

第1章の最終回となる次回では、私がどのようにして感情を殺し、町工場の技術者時代のように「作業」としてトレードを行う仕組みを構築したのか、その「逆転への第一歩」についてお話しします。

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