Last Updated on 2026年2月14日 by ぷーやん

第1回では、1999年の人生最大のドローダウンと、相場における「努力のパラドックス」についてお話ししました。
続く今回の【第2回:ITバブルの狂乱と聖杯探しの迷路】では、私がさらに深い絶望へと突き落とされた実体験と、相場に蔓延する「甘い誘惑」の正体を暴いていきます。
【第2回:ITバブルの狂乱と聖杯探しの迷路】
全人類が「自分は天才だ」と勘違いした時代
「株を買えば、明日には金が増えている」
1999年から2000年にかけて、日本中がそんな集団催眠にかかったような熱狂の中にありました。世に言う「ITバブル」です。
当時、ソフトバンクや光通信といった銘柄は、理屈を超えた暴騰を続けていました。
1994年に円相場が初めて100円を突破した時の緊張感とはまた違う、どこまでも膨らみ続ける欲望のバブルです。
猫も杓子も「ドットコム」と名の付く企業に群がり、昨日まで投資の「と」の字も知らなかったサラリーマンや主婦が、一晩で数百万円の含み益を手にして「自分には投資の才能がある」と本気で信じ込んでいました。
再就職先で「社畜」として潜伏していた私も、その熱狂の渦に飲み込まれた一人でした。
町工場の技術者として培った慎重さは、連日テレビや雑誌で踊る「億万長者」の文字によって完全にかき消されていました。
私は当時、一株17万円から18万円という、まさに富士山の頂上のような高値でソフトバンク株を100株買い込みました。
当時の私にとって、それは再出発のための全財産を賭けた、文字通りの「特攻」でした。
しかし、山の頂上に辿り着いたと思った瞬間、足元の地面が消えました。
バブルは、弾ける直前が最も美しく輝くと言いますが、それは崩壊の序曲に過ぎなかったのです。
18万円をつけた株価は、坂道を転げ落ちる石ころのように下落し始め、秋にはわずか1万円にまで暴落しました。
損切りできない脳、壊れていく精神
目の前で100万円単位の数字が、溶けて消えていく。
その光景を眺めている時の精神状態は、言葉では言い表せないほど異様です。
「今売れば、500万円の損失が確定する。だが、売らなければ『まだ負けたわけではない』」 この「未確定の損失」という甘い毒に、私は全身を侵されていました。
食事をしていても、敗北感という黒い霧が頭の中を覆い尽くし、米の味が全くしません。
テレビを見ても、笑い声が遠くの騒音のようにしか聞こえない。体中が鉛のように重く、何も楽しめない無気力状態。
夜、寝床についても、目を閉じればチャートの残像が網膜に張り付き、心臓の鼓動が耳元でうるさく鳴り響く。
結局、再起不能なレベルまで資金を失い、白旗を上げた時には、口座に残っていたのは惨めな端数だけでした。
この時、私は初めて知ったのです。
「数字が人格だ」と言われるマーケットにおいて、負けた人間にはゴミのような価値しか残されないということを。
「聖杯」という名の蜃気楼
大きな損失を出し、どん底にいた私が次に求めたのは、一発逆転の「魔法」でした。
「自分があれほど努力しても勝てなかったのは、自分がまだ『真実のロジック』を知らないからだ」と考えたのです。
そこから、私の「聖杯探し」の放浪記が始まりました。
インターネットの掲示板や広告には、弱りきった投資家の心を揺さぶる言葉が溢れています。「年収5000万円なんて楽勝」「100万円が9ヶ月で1億円」「勝率9割の神の指標」。
私は藁にもすがる思いで、こうした情報商材や高額セミナーに総額数百万円を投じました。
ある商材は、仰々しい黒い封筒に入って届きました。震える手で中身を開けると、そこには目を疑うような内容が書かれていました。
「あなたが『買い』と思ったら『売り』なさい。逆に『売り』と思ったら『買い』なさい。人間の本能と逆のことをするだけで、あなたはお金に困らなくなります」
あまりの馬鹿馬鹿しさに、怒りを通り越して乾いた笑いが出ました。
しかし、皮肉なことに、この「本能の逆を行く」という一文こそが、相場の本質を突いていたことに気づくのは、それから何年も後のことになります。
商材の99%は、検証すらされていないゴミのような内容でした。過去の特定の期間だけを都合よく切り取り、未来永劫通用するかのように見せかける「過剰最適化(カーブフィッティング)」の塊です。
私はそれらを買い漁ることで、さらに資金を減らし、大切な時間をドブに捨て続けました。
「マグレ」という名の最大の毒
相場の世界には、初心者を破滅に導くための最も残酷な仕掛けがあります。 それは、「何の知識もない素人が、たまたま勝ってしまう」という現象です。
私はこれを「マグレ」と呼び、最大の「毒」であると警告しています。
ビギナーズラックで一度大勝してしまうと、脳は強烈な快感を記憶します。すると、その後の負けを「実力不足」ではなく「運が悪かっただけ」と片付けるようになります。
パチンコ屋で一度大当りした人間が、その後何十回と負けても「あの時の感触」を忘れられずに通い詰めるのと全く同じ構造です。
運を実力と勘違いした瞬間、地獄の扉が開きます。
マグレで手に入れた金は、いずれマーケットに利息付きで返さなければならない「借金」に過ぎません。その金を自分の実力だと過信し、生活レベルを上げたり、ロットを上げたりした時、マーケットは冷徹にその全てを、そしてあなたの尊厳までも奪い去ります。
「勝っても、まぐれ。負けても、まぐれ」 一回一回のトレードに一喜一憂し、感情を揺さぶられているうちは、相場をATMに変えることなど不可能です。
孤独なモニターの前の「見えない敵」
あなたが深夜、暗い部屋でモニターを見つめている時、注文ボタンの向こう側に誰がいるか想像したことがあるでしょうか?
チャートの波形を作っているのは、あなたと同じ「迷える個人投資家」だけではありません。
そこには、年収数億円を稼ぎ出し、最新鋭のスパコンとアルゴリズムで武装したウォール街の怪物たちがいます。
彼らにとって、あなたの欲望や恐怖は、計算式の中の「変数」に過ぎません。あなたが「ここが底だ!」と思って買った瞬間、彼らはその「買い」をエサにしてさらに売り崩し、あなたのロスカットを誘発させて利益を上げるのです。
一分一秒の判断力を高めるためにマルチディスプレイを並べ、最新のチャートソフトを導入しても、ナノ秒単位で取引を行うAI(人工知能)に人間が勝てる道理がありません。
私たちは、竹槍を持って最新鋭のステルス戦闘機に挑むような、無謀な戦いを強いられているのです。
この残酷な構図を理解した時、私は悟りました。
「正面から戦ってはいけない。彼ら怪物が相手にしないような『相場の歪み』だけを、ハイエナのようにこっそりと掠め取る仕組みが必要なのだ」と。
次回、第3回では、人間がいかにして「負けるようにプログラミングされているか」という、行動経済学の核心「プロスペクト理論」の正体と、感情という最大の不純物を排除するための「儀式」についてお話しします。
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